女性の皆さんへ

 「女は一個の人である」 (「理知に聴く女」『雑記帳』)

  わたし達は性の上に偏つた思想を持たない。
  人類の半数を占むる女は男子と対等の物、すなわちひとしく「一個の人だ」と思ふ。
  女であるからと云つて特に卑下すべき道理の基礎を見出さない。
  女子が妊娠と育児とによつて身を労し、早く老ひ、命を縮めて来た過去の歴史だけを
 見ても、共同生活の上に女子の負担が男子のそれに比べて優るとも劣らない事は明かである。

 「山の動く日」(詩) (『夏より秋へ』)

  山の動く日きたる、
  かく云へど、人これを信ぜじ。
  山はしばらく眠りしのみ、
  その昔、彼等みな火に燃えて動きしを。
  されど、そは信ぜずともよし、
  人よ、ああ、唯だこれを信ぜよ、
  すべて眠りし女、
  今ぞ目覚めて動くなる。

 「毒蛇と接吻する事によつて常に勇気づけられて居る」 (「理知に聴く女」『雑記帳』)

  旧約聖書に人の始祖アダムの妻イヴが、蛇に教へられて禁園の木の実を良人と共に
 食つた有名な神話がある。
  蛇は何を教へたか。
  「なんじこれを食ふ時はなんじらの目開け、なんじら神の如くなりて善悪を知るに到る。」
 と教へた。
  その木の実は「食ふに善く、目に美はしく、かつ賢からんために慕はしき」ものであつた。
 蛇の言葉に励まされてそれを食つた新しい男女は、たちまちともに心の目が開いて
 両人の裸体で居る事を恥ぢ、無花果の葉を綴つて裳を作り下体をおおふに到つた。